孤高の魚





息を切らしてホテルへと戻る。

僕はどのくらい走っていたのだろう。
すぐにでも、膝が床に崩れてしまいそうだった。
ひどく、とてつもなく、長く長く感じた。
けれども携帯を確認すると、まだ7時半を回った所だった。


フロントで、連れの女性を見なかったかと尋ねてみる。
「お連れ様は、今朝6時頃、こちらを出ていかれました」
と、フロントの男性は淡々とした口調で告げた。
そこには、何の感情も含まれていない。
事務的な声だ。


『お連れ様は、6時頃、こちらを出ていかれました』

それが……呆気ない僕達の幕切れの合図になるのか。


………


無人の部屋へと帰る。

ドシリ、とベッドに腰を落とす。

彼女がくるまれていたベッドカバーが床に落ちていた。
それは何かの生き物のように、とぐろを巻いて横たわっている。

僕は、何も考えられなかった。
もう、考えるという事自体がよく解らなかった。

ただ、呆然としていた。
もう何もかもが……
麻痺してしまったみたいに。



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