孤高の魚
どのくらい座り込んでいただろう。
キッチンのヒーターの熱が、開け放していたドアから漏れ出していて、この部屋も徐々に暖まり始めていた。
それと同時に僕もまた、涙と共に感情が流れ出し、少しずつ冷静を取り戻していた。
鼻を啜る。
泣きすぎて、瞼が痛い。
随分酷い顔だろう、と思う。
けれどもこの顔を見て、心配してくれる同居人はもうどこにもいない。
『どうした? 歩夢。らしくないな』
歩太なら面白がって、からかうように笑うだろう。
『どうしたの? アユニ』
野中七海ならそう言って、眉を寄せるに違いない。
そうして二人とも、こんな僕のために熱いコーヒーを入れてくれる。
……湯気を上げる、苦味の強い濃いめのコーヒーを。
ああ、きっとそうだ。
そうに違いない。
………
僕は思い立ち、重い腰を上げた。
フラフラした足取りでキッチンへ戻ると、鼻をかみ、お湯を沸かす。
無性に熱いコーヒーが、飲みたかった。