孤高の魚


ボソボソと紡ぎ出される彼女の言葉を、僕はグラスを拭きながらカウンターの中で聞いた。


「……歩太の、知り合いなんですか?」


僕はあくまで真摯らしい言い方でそう呟き、

『野中七海さんですか?』

などとはもちろん訊けなかった。


………


「はい。妹です」


僕の質問に、彼女ははっきりとそう答えた。


……妹?
なら、彼女は『野中七海』ではないのだろうか。


「え? 妹さん?」


「はい」


「歩太の?」


「はい」


「………」


………


彼女とそんなやりとりをしてから、僕はしばらく考え込んでしまった。

歩太に妹がいたのももちろん初耳だった。


そんな僕の様子を、つぶらな瞳でジッと見つめながら『歩太の妹』は、すごく真剣な面持ちだ。


< 65 / 498 >

この作品をシェア

pagetop