孤高の魚
ボソボソと紡ぎ出される彼女の言葉を、僕はグラスを拭きながらカウンターの中で聞いた。
「……歩太の、知り合いなんですか?」
僕はあくまで真摯らしい言い方でそう呟き、
『野中七海さんですか?』
などとはもちろん訊けなかった。
………
「はい。妹です」
僕の質問に、彼女ははっきりとそう答えた。
……妹?
なら、彼女は『野中七海』ではないのだろうか。
「え? 妹さん?」
「はい」
「歩太の?」
「はい」
「………」
………
彼女とそんなやりとりをしてから、僕はしばらく考え込んでしまった。
歩太に妹がいたのももちろん初耳だった。
そんな僕の様子を、つぶらな瞳でジッと見つめながら『歩太の妹』は、すごく真剣な面持ちだ。