シュガー&スパイス

ポタ

ポタ ポタ



膝の上に乗せていた手の甲が、ふわりと暖かくなって消えていく。

気が付けば、涙が溢れていた。




どうして

どうしてあたし忘れていたんだろう……


あの男の子は、もしかして……。




――バタンッ!



え……?


静寂を切り裂くような音に、弾かれるように立ち上がった。

振り返ると……。





「……っはあ、はあっ」



うそ……なんで?

逆光になったその姿はほぼシルエットだけ。
でも、すぐわかった。

彼だって……。



「千秋……」

「……菜帆」



上下する肩。
苦しそうに息を吐いて、千秋はゆっくりとその扉を閉めた。



一歩一歩距離が縮まる。

それはまるでスローモーションのようで。

神聖な教会の空気がそうさせてるんだろうか。
綺麗なスーツを着た千秋は、本物の王子様のようだ。



まっすぐにあたしを見据えたまま歩き出す。


……え?


それから、駆け寄るように走るとそのままの勢いで、ギュッと抱きすくめられた。



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