シュガー&スパイス

なんで……千秋が……
ダメかと思った……。

来てくれないと思ってたのに……。



ジワリと視界が滲んでいく。


千秋はギュウウってさらに力を込めると、顔を埋めて小さな小さな声で言った。



「……マジごめん。もっと早く来るつもりだったんだけど」



溜息と共に吐き出されたその言葉は、あたしの中に入ってくる。

なにも変わらない千秋。

今日あたしに起こった事が、それが夢のようだ。


それからもう一度腕に力を込めた千秋は、そっとあたしとの距離をとった。


両手で頬を包まれたまま、息がかかりそうな距離で千秋はあたしを見下ろす。
長いまつ毛の奥が、ユラユラ揺れている。


「泣いてたの?」

「……えっ」


そっと頬を指で撫でられて、あたしは慌てて俯いた。

……俯こうとした。
でもできなくて、唇をギュッと噛みしめた。


「泣かせてごめん。でも、もう大丈夫だから」


大丈夫?

なにが?


キョトンと首を傾げると、千秋は口元をフッと緩めるとまたあたしの身体を引き寄せた。



「俺は結婚もしないし、親父の会社を継ぐ気もない。
ちゃんとそう言ってきた」



え?


< 347 / 354 >

この作品をシェア

pagetop