シュガー&スパイス
なんで……千秋が……
ダメかと思った……。
来てくれないと思ってたのに……。
ジワリと視界が滲んでいく。
千秋はギュウウってさらに力を込めると、顔を埋めて小さな小さな声で言った。
「……マジごめん。もっと早く来るつもりだったんだけど」
溜息と共に吐き出されたその言葉は、あたしの中に入ってくる。
なにも変わらない千秋。
今日あたしに起こった事が、それが夢のようだ。
それからもう一度腕に力を込めた千秋は、そっとあたしとの距離をとった。
両手で頬を包まれたまま、息がかかりそうな距離で千秋はあたしを見下ろす。
長いまつ毛の奥が、ユラユラ揺れている。
「泣いてたの?」
「……えっ」
そっと頬を指で撫でられて、あたしは慌てて俯いた。
……俯こうとした。
でもできなくて、唇をギュッと噛みしめた。
「泣かせてごめん。でも、もう大丈夫だから」
大丈夫?
なにが?
キョトンと首を傾げると、千秋は口元をフッと緩めるとまたあたしの身体を引き寄せた。
「俺は結婚もしないし、親父の会社を継ぐ気もない。
ちゃんとそう言ってきた」
え?