歩み
廊下に響き渡る、手が頬に当たる音。
音の方が衝撃的過ぎて、痛さなど感じなかった。
ただ、なにが起こったのか理解出来なくて、叩かれた反動で、俺は左頬を軽く手で触った。
まだ残る、熱。
じんじんと熱いモノは、空気に触れて徐々に引いていった。
言葉が浮かんでこない。初めての経験だからだろうか。
親父にも殴られたことのない顔を富田に殴られた。
それが衝撃的だったのか?
それとも初めて富田が反抗したのに驚いたのか。
それすら考えている余裕はなかった。
「歩さん!何を言ってるんですか!!消えたいって…どうしてそんなことを言うのですか?歩さんは、もっと強い人だと思っていました」
ちらっと富田を見上げると、富田の瞳は涙で少し潤っていた。
俺は強くない。
誰が強いと言った?
それは富田が勝手に思い描いた想像なのじゃないのか?
俺は強くなんかない。
「…俺は…強くねぇよ…」
「…なんで自分を大切にしないんですか!!
歩さんにも生きる理由があるはずです。その理由を見つけ出すために、この世界に生まれてきたんでしょう?違いますか?」