歩み


廊下に響き渡る、手が頬に当たる音。
音の方が衝撃的過ぎて、痛さなど感じなかった。

ただ、なにが起こったのか理解出来なくて、叩かれた反動で、俺は左頬を軽く手で触った。

まだ残る、熱。
じんじんと熱いモノは、空気に触れて徐々に引いていった。


言葉が浮かんでこない。初めての経験だからだろうか。
親父にも殴られたことのない顔を富田に殴られた。

それが衝撃的だったのか?
それとも初めて富田が反抗したのに驚いたのか。

それすら考えている余裕はなかった。



「歩さん!何を言ってるんですか!!消えたいって…どうしてそんなことを言うのですか?歩さんは、もっと強い人だと思っていました」



ちらっと富田を見上げると、富田の瞳は涙で少し潤っていた。



俺は強くない。
誰が強いと言った?
それは富田が勝手に思い描いた想像なのじゃないのか?


俺は強くなんかない。



「…俺は…強くねぇよ…」



「…なんで自分を大切にしないんですか!!
歩さんにも生きる理由があるはずです。その理由を見つけ出すために、この世界に生まれてきたんでしょう?違いますか?」




< 112 / 468 >

この作品をシェア

pagetop