歩み
そんなこと言われても分からないよ。
まだ痛む左頬。
俺は唇を噛み締めて、下を向いた。
前向きになんてなれない。
下向きのまま生きていった方が楽だ。
「歩さん…自分を見失わないでください…」
富田が俺の肩に触れて、力を入れていく。
まるでパワーを与えるかのように。
もし俺にも生まれてきた理由があるとしたなら、こうだと信じたい。
俺がこの世界を選んで生まれてきた理由は、水島沙紀に出逢うためだと。
違うかもしれないけど、信じたい…。
「…富田になんか分かるのかよ、俺の気持ち…」
こう投げ捨てて、富田の手を振りほどいた。
さっき殴った手で俺に触れるなよ。
その手が凶器だと思って怖くなってしまう。
俺は逃げる。
この家に自由なんかないのに、見つけようと走っていく。
結局行き着いた場所は自分の部屋だった。
暗い部屋にぽつんと佇む俺。
その暗闇の中はまるで俺の心のようで、胸が締め付けられた。
そして耐えきれず、一粒涙を流した…。
俺は自由を望んではダメなの?