叶多とあたし
「そんなに怖がらないで……」
男は、わざとらしく眉を下げるが、口元は笑っている。
その表情が怖かった。
不安を煽った。
「……やだぁ…」
やっと声になった声で呟くと
「じゃあ叫べば?」
男が冷めた声で言った。
「………」
あたしが何も言えないでいると、男は笑いを含んだ声で言う。
「……出来ないよね。今日は誰にも連絡取ってないからね。助けはこないよ?」
そう言った男の手には……
ハサミ。
どうしようもない恐怖があたしを襲った。
身体が固まって、息をする間もなくて……。
大きな鼓動があたしの頭いっぱいに響く。
「あん時みたいに警察呼ばれたらやだからね。バカだったなぁ俺たちも。あんなことしたら警察沙汰になって当然だって、少し考えればわかることなのにさぁ」
そこまで繋いでクスクス笑う。
「あん時の俺らにはそんな余裕なかったからなぁ。頭に血、昇っててさ。コイツを見張りに外に出させてたのも迂闊だった。俺らの居場所教えてるようなもんだったよな!」
『コイツ』でチャラ男を指す。
チャラ男は何も言わずに苦笑してから肩をすくめた。
そう……。
あの日、髪がボロボロになったころ。
警察がやってきた。
そこに叶多の姿はなかったけれど。