叶多とあたし
「叶多にあの日…四年前みたいにまた殴られるのもご免だしね」
……はっ?
男のその言葉で回想から意識を戻された。
四年前のあの日……?
何言ってんの?
あの日、叶多は居なかった。助けになんか来なかったのに。
顔をしかめたあたしを見て、男はクスリと笑う。
「そっか。君は知らないんだね。叶多はいたよ。四年前のあの日。君を助けにね、来ていた」
「……え…」
無意識に言葉が漏れた。
「やっぱり。知らないんだね。かわいそ~にぃ。あんな感情的になった叶多は初めて見たよ?すっごい形相でさぁ、あれ見れただけでも君を誘拐して良かったよ。俺のこと思いっきり殴ってね、警察に取り押さえられても地面なんか殴ってさぁ…」
男は喉で笑いながら言葉を綴った。
「あれは痛かった!もうあんな思いはご免だよ~ホント!」
そこまで言って、はぁ~と男は息を吐いた。
「でもね。叶多もあんなことするのはもうご免だと思うよ?なんたって、俺らとか地面殴った叶多の手、痣だらけになってたから。もう、助けはホントに来ないね!」
眩しいほどの満面の笑みを彼は浮かべる。
本当にそうだ……。
あたし、何も知らないで「大っ嫌い」なんて……。
叶多のこといっぱい責めて……。
きっと聞かされてたはずだよね。
あたしが誘拐された理由。
叶多は責めたよね?自分のこと。
なのに…。
あたしも叶多責めてばっかりで…。
叶多があたしから逃げて当然だ。
挙げ句には、あたし……叶多があたしから逃げたことまでも責めてた……。
うわ……サイテーじゃん。あたし。
叶多の胸の内を考えたら悲しくて仕方がなくなった。