ヤサオトコ

 帰りかけていた田原が、思わず立ち止まった。
 受付に訪問者が現れたからだ。


 「関西印刷です。宣伝部の橋爪部長をお願いします」


 橋爪部長と聞くと、田原はぴくっと反応し、耳を澄ました。

 「少しお待ち下さい」

 先ほどの受付の女性とは違う声が聞こえて来た。
 田原は一言も聞き漏らさないようにする為、全身を耳に集中した。


 「お待たせしました。入館証をお渡ししますので、ここにサインをして下さい」  
 「ありがとうございます」

 
 訪問者は訪問者リストにサインをすると、一礼をしてエレベーターへ。


 「そんなあほな」


「居るやないか。わしには居留守かいな」


 田原は自分の耳を疑った。



 (橋爪部長は怒っているのや。間違いないわ)


 田原は確信をした。

 
 (取引は無くなるかもわからへん)


 (ぴーぴー男め。絶対にリストラしてやるからな)



 田原は恐ろしい事態を招いた部下への怒りで、体をぶるぶると震わせていた。







 
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