ヤサオトコ


 栗崎と池見房江は、一緒に暮らすようになった。
 房江は、栗崎と結婚したという証拠の写真が欲しかった。


 いわゆる結婚写真。
 誰もが羨む、火傷しそうな熱々の写真を。


 それで、近くの写真館で、写真を撮る事にした。
 娘の野乃絵は、その立会人。


 嫌がる野乃絵を、房江は無理やり写真館に連れ出した。


 「どうして私が立会人なの。二人で勝手に撮ったらええやないの」


 野乃絵は文句をぶつぶつ。


 「うちの一生の頼み位、聞いてくれてもええやろ」


 房江が、野乃絵に両手を合わせて拝み倒した。


 「嫌やわ」
 「写真撮影の前に、指輪の交換がしたいのや。せめて、結婚式の気分だけでも味合わせてえな」


 「私に神父役まで遣らせるつもり」
 「せや。頼むから、引き受けてえな。結婚式の真似事がしたいのや」


 「結婚式の真似事やて。あほらし。ええ年してからに」
 「なあ、頼むわ」


 「嫌よ。娘より年下の花婿なんて。気持ち悪いわ」
 「お願いや。これこの通りや」


 房江が必死に野乃絵に頼み込んだ。






< 189 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop