ヤサオトコ
栗崎と池見房江は、一緒に暮らすようになった。
房江は、栗崎と結婚したという証拠の写真が欲しかった。
いわゆる結婚写真。
誰もが羨む、火傷しそうな熱々の写真を。
それで、近くの写真館で、写真を撮る事にした。
娘の野乃絵は、その立会人。
嫌がる野乃絵を、房江は無理やり写真館に連れ出した。
「どうして私が立会人なの。二人で勝手に撮ったらええやないの」
野乃絵は文句をぶつぶつ。
「うちの一生の頼み位、聞いてくれてもええやろ」
房江が、野乃絵に両手を合わせて拝み倒した。
「嫌やわ」
「写真撮影の前に、指輪の交換がしたいのや。せめて、結婚式の気分だけでも味合わせてえな」
「私に神父役まで遣らせるつもり」
「せや。頼むから、引き受けてえな。結婚式の真似事がしたいのや」
「結婚式の真似事やて。あほらし。ええ年してからに」
「なあ、頼むわ」
「嫌よ。娘より年下の花婿なんて。気持ち悪いわ」
「お願いや。これこの通りや」
房江が必死に野乃絵に頼み込んだ。