ヤサオトコ

 国道沿いの写真館の前。
 房江は野乃絵に向って、執拗に両手を合わせた。


 「知らんわ」


 野乃絵はぷいと横を向いた。


 「あっ、緊張したら、おしっこしたなってきたわ。あかん。もう、洩れる~。ほな、頼んだで」


 房江は写真館に入るや否や、トイレに突進した。


 「もう。お母ちゃん。いつもこれやから嫌やわ。栗崎さん、先に行こう」


 二人は、仲良く館内の奥に入った。


 奥は、スタジオになっている。

 「いらっしゃい」

 中から、店主らしき男が出て来た。


 「撮影ですか」
 「ええ・・・」


 野乃絵が笑顔で答えた。


 「そこに、お二人で、並んで立っていただけますか」
 「えっ、まだ。来ますので」


 栗崎はトイレの方を見た。






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