その社へと続く長い道は
尾行
息を巻いて飛び出したのはいいものの、この辺地理に詳しくないわたしは早くも路頭に迷っていた。猫が溜まり場というイメージとさっきのおばあちゃんの話から近所の神社に来てみたが、当然ながらそんな簡単に見つかるはずもなかった。社の縁側に腰掛け他にどこを探そうか悩んでいると、目の前に一匹の三毛猫が通りかかる。

「あ、お前夏丸の友達だな。ここに住んでるの?ねぇ、夏丸がどこいったか知らない?」

三毛は「にゃー」っと一声鳴いて、前足で顔を洗う仕草をする。

「知ら「にゃー」いか……へ?」

その鳴き声はわたしの後ろから聞こえた。人間でいうと少しドスのきいた低い声の様な、貫禄のある鳴き声。振り向くと目つきの鋭い、猫にしてはやや恰幅の良すぎる黒猫が座っていた。付き人の様にトラ猫とブチ猫を従えている。その2匹はスマートだった。
その3匹は身軽な動きで(体格が良くても猫の動きだ)縁側を飛び降りると、黒いのが三毛猫に向かって話しかけるように先ほどの低い声で鳴く。
すると4匹は同時にどこかへ向かって走り出す。
わたしの目がキラリと光る。

「これだ!!」

猫の集会というのを聞いたことがある。きっとこれを追えばそこに夏丸もいるはずだ。わたしはすぐさま黒たちの後を追いかけて走り出した。
神社の雑木林を抜けて、石の壁を飛び越え、細い路地をひたすら進む。途中やってるかやってないかわからないような商店を通り過ぎ、いつのまにか山の中へ。
そして帰る方向がわからなくなったところで、黒たちを見失ってしまう。

「……迷った……どうしよう」

右を向いても左を向いても、ただ同じような景色が広がるばかり。幸い天気のいい昼間だったから、生い茂った森でもそこまで暗くはなかったが、妙に静まり返ってどこか不気味だった。この状況をどうやって打開しようか……。わたしは目を瞑って考える。
よく耳を澄ますと微かに水の音が聞こえた。とりあえず、ずっと走ったせいで汗だく。喉もからからだった。思い出すとどんどん喉が乾いてくるから不思議だ。わたしは水の音を頼りに道なき道を下ってみた。だんだんと音が近くなって、いよいよ喉を潤せるかと膨らんだ期待も、姿を現した渓谷を前にパチンと音を立てて割れてしまった。
水は崖の遙か下に見える。周りを見ても下に降りられそうな道は見当たらなかった。目の前にはいつかけられたかわからない様な吊り橋がかかっているが、ボロすぎて渡る気にはとてもなれない。
と思っていたら、橋の向こうに黒たちの一団が行くのが見えた。見えてしまった。

「……マジか……」

多分、この夏一番の冒険だったと思う。一緒に渡ったらどんな男でも好きだと勘違いしてしまいそうなくらいハラハラドキドキしてしまった。ただ、その感情を分け合う人がいないのがなんとも寂しい。人間一人だとそうそう大きなリアクションはとれないものなんだな。
ゆっくり、慎重に、時間をかけてその難所を越えたわたしは、黒たちを追ってさらに森の奥へ。このとき帰れなくなるとかの恐怖よりも、強い好奇心と夏丸に会いたいという気持ちがわたしを動かしていた。
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