愛しい子
「……は」
「妊娠、したかもって」
加治は私の前に座ったままピクリとも動かなくなった。
やっぱり言わなければよかったんだ。
今からでも遅くはない、冗談とか言ってなかったことにしよう。
「…………」
早く言え。
取り返しのつかないことになる。
期待なんかしちゃダメだ。
「もしも」なんてないんだから。
加治を困らせるな。
受け入れてくれる。
なんて思っちゃダメ。
「亜久里」
「っ……」
ビクッと体が揺れる。
引かれる、失望される、追い出される。
どうしよう、怖い。
「俺の子、なのか」
「……他に誰もいないじゃん」
口が勝手に動く。
どうしても言えない。
私バカなんじゃない?
漫画みたいに、ドラマみたいに産めるわけないでしょ?
私達は高校生なんだ。
もっと真面目に考えて。
悲劇のヒロインにでもなりたいの?
「か、加治!あのっ」
冗談だよ、ウソウソ。
騙された、あはは。
ほら、早く言え。
「……ありがとう」
「…………?」
思考が停止する。
「ありがとう」?
私は加治の腕の中にいて、さっき言おうとしていた言葉は加治の腕で消えてしまった。
加治は私の体を大切そうに撫で、ゆっくり離れる。
「ありがとう」
「……なにが」
「いや、あの……」
何を言えばわからないのか、焦っている。でも、目をそらさない。
だから私もじっと加治を見つめて、加治の言葉を待った。
「……産んでくれ」
え?
「お前ら二人養える自信はないが、覚悟だけはある。命に代えても守る」
うそ。
「俺と結婚してください」
「……え、あ、はい」
どうしよう。
一日に妊娠してプロポーズされて。
もうビックリしちゃって、頭真っ白で。
涙出ちゃって、鼻水出ちゃって。
加治に泣きついて、加治の服汚しちゃって。
今日一日で溜めていた何かが、爆発しちゃったみたい。