愛しい子
「……ごめん。服、鼻水とかつけちゃったね」
「ん?いいよ。洗えばいいだけだ」
少し暗くなった時間に、私は加治に家まで送ってもらった。
二時間くらい泣いたからか、目が真っ赤。
鏡をみたらブサイクが映っているに違いない。
でも加治はそんなブサイクの手を握り、愛してると言ってくれた。
「……加治」
「うん?」
「結婚、するの?」
「……はいっていったろ」
「冗談とかじゃ……」
「俺ってそんな最低な男に見えるのか」
「……本当なんだ」
なんだか実感がない。
そりゃ一日で妊娠だの結婚だの言われて実感できる方が変か。
「……加治」
「んー?」
「気が早いけどさ、子供が無事に産まれて、もし私達のこと養えなかったらどうする?」
「……そんときは、かっこわりぃけど親の力を借りる」
「断られたら?」
「……俺が頑張る」
「頑張れなかったら?」
「うざい」
「ごめん」
だよね。
もう少し前向きに考えたいけど、なんだかマイナスの方向にしか進まない。
私が鬱になっていると、加治が乱暴な手つきで頭を撫でてきた。
「まあ、その……あれだ。安心しろとは言えねえけど、信じてくれ。いつか絶対、結婚してよかったって言わせてやるから」
「……うん」
どんどん加速する鼓動。
過去最大級の熱が出るかも。
「……あんま見るな」
「だって、かっこいいこと言うから」
「うっせえ」
「今じゃ何言ってもかっこいいと思える」
「ブス」
「死ね」
「かっこいいと思えや」
「思えるかアホ」
いつもの調子に戻りました。
家の前まで来ると、ちょっと淋しい。
「……じゃあね」
「学校はくるんだろ」
「うん。まだはっきりとはわかってないから。みんなには内緒」
「わかってる。体冷やすなよ、すぐ寝ろよ」
「うん」
「あと……愛してる」
「うん、愛してる」
名残惜しそうに見つめて、見えなくなるまで彼を見送った。