いつかの君と握手
「…………タイムアップ、かな」


ケータイを見て、小さく呟いた。
時刻は3時50分になろうとしていた。


あれからすぐに、下手に歩き回っても無駄かもしれない、と思って移動するのを止めた。

目指す方角も何もわからないのに歩き回るのは、やはり得策ではない。
頼りない光だけでは、どんな事故を起こすか分からない。
帰りたい一心での無謀な行為は、イノリを危険な目にあわせてしまうかもしれないのだ。


捜索が来るのを待ったほうが賢明だ。

偶然にもそこはひらけた草むらだったので、そこで救助を待つことに決めた。

イノリはあたしの膝を枕に、すうすうと心地よさそうな寝息をたてている。
その頬をそっと撫でて、ため息をついた。


もし時間通りにK駅のバス停についていたとしても、戻れたとは限らない。
無駄足になった可能性だってある。

そうだ。
それに、加賀父が言ってたじゃないか。
もし戻れなくても、必ず帰れるようにする、って。


くよくよするな、美弥緒。
きっと道はある。
うん、そうだ。


「ミャー……」


これ以上ため息をついてしまえば、気持ちが落ち込んでしまう。
ぐ、と唇を噛み締めたら、イノリが寝言をもらした。


「ねこの鳴き声、かな? それともあたしを呼ぼうとした?」


かわいらしい寝言に、ふ、と笑う。
それからもイノリはもごもごと口を動かしていたが、言葉はこぼれなかった。


まあ、この子が無事だったんだから、それだけでも十分、か。
あたしが見つけなかったら、この子はまだあそこで痛みと不安で泣いていたかもしれないんだ。
自分の足首をそっと撫でた。


「……まあ、あんたと一緒にいられる時間が増えたと思えば、いっか」


呟いて、夜空を見上げた。
と、遠くから声が聞こえた気がした。


「ん?」

「…………!! …………!!」


やっぱり声がする!
捜索隊!? いやもうなんでもいい!
とにかく声をあげて気付いてもらわなくちゃ!


「こっち! こっちーぃ!!」


気付いて! ここ! ここなんです!

できうる限り、大きな声を上げた。
あたしの声に目を覚ましたイノリも、誰かの声が聞こえると分かるや、身を絞るようにして大きな声を上げた。


「祈ー! 美弥緒ちゃーん!」

「みーちゃーん! 返事しろ! 祈ー!」


ちらちらと人工的な光が見えた。


< 157 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop