僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
「お待たせ。」
部活が終わり、帰りの電車は一緒になる。
「お疲れさん。女子マネ。」
「もうあんなにいた女子マネが三人だけになっちゃった。」
「凄い減りようだな。」
「きっと人類の森林伐採と同じペースなのよ。」
無表情で言う。
冗談かどうかがわかりづらい。
「平坂先輩は怖くないのか?」
「全然、あの人優しいもん。」
「そうか?」
「この間見たの。平坂先輩が、女の子とデートしてるとこ。たぶん彼女で、とても先輩でれでれしてた。その目がとても優しかったの。」
「そう…か?」
わかんねぇ。
「大変じゃないか?」
「大変だけど、まぁこんなもんでしょ?部活って。」
「そういうもんなのかな。」
「そういうそっちはどうなの?」
電車がゆっくりと加速を始める。
「うーんと、軽い地獄?」
「多分まだ地獄の門の前だよ。中も覗けてない。」
なんだ?その知ったような口ぶりは?
「あ、なんでもない。ところでさ、椎名先輩ってさぁ…」
ガタンッ!!
と、車体が大きく揺れる。
ここでいつも大きく揺れるのだ。
最近からだが覚えてきた。
「キャッ!」
ちょっとバランスを崩したが、持ち直す島井。
僕のほうに倒れ掛かる。
と言うような漫画のようなアクシデントは起きなかった。
「椎名先輩がどうかしたか?」
「…いや、なんでもないよ。」
…?何?
…!?もしかして、椎名先輩に惚れたとか!?
「勝てる気がしねぇっ!」
顔も(おそらく)成績もサッカーも!全部負けてるぞ!?
「どうかしたの?」
「へ?」
「勝てる気がしないって…」
「ん?」
「だから、今言ってたじゃん。勝てる気がしないって。」
「言った?」
「もういい。」
「え?ちょっと島井!ゴメン。ゴメンってばぁ!!」
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