モラルハザード


陽介は昨日、右田の車で帰ってきた。

私は陽介の姿を見たとたん、涙があふれて声にならなかった。


「奥さん、よかったですね」

「ありがとうございます。右田さんのおかげです」

声にならない声でお礼を言った。


本当に、右田のおかげだ。

右田の会社の顧問弁護士が腕がよかったのか

陽介は証拠不十分のため処分保留で釈放されたのだ。

「いえ、私にも森川くんは大切な仕事のパートナーです。

こんなことでつまずいてほしくなかった。本当によかったです」

「右田さん、ほんまに今回はありがとうございました。このことは

一生忘れませんよ」

陽介は右田と握手を交わしていた。

「森川くん、いや、陽ちゃん、これからもよろしく頼むよ。

とりあえず来週、連絡するよ」

右田は軽く手をあげて行ってしまったのを車が見えなくなるまで見送った。
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