モラルハザード
「今回のことで、右田さんには世話になったわ。いい弁護士手配してくれて。
ほんま、頭あがらんわ…ま、そやけど、俺の悪運も相当強いんやけどな」
拘置所で不自由な生活をしていた陽介にとっても久しぶりのお酒で、
今日はいつにも増して饒舌だった。
向日葵があくびをして私のひざを枕に眠り出した。
「警察もちょろいもんやな。疑わしきは被告人の利益なり、いうて
そんな甘いこというてるから、詐欺師が減らへんねん」
詐欺師という言葉にドキッとした私は陽介に問いかけた。
「ね…、陽介、陽介は悪いことなんてしてないんでしょ?」
「悪いこと…?どうやろな…」
陽介が不敵な笑みを浮かべた。
「証拠を出せいうて、警察が調べとったんや。
でもな、証拠なんて残してるはずないやん。
こっちは、うまいことやってるんや。
そしたら証拠不十分で処分保留やて。笑えるわ」
さも可笑しそうに陽介は笑うが、私は笑えなかった。