モラルハザード
「うん、真琴、俺、芸人やめるわ」
「…え?どうしたの?透?
ずっと頑張って、大好きだったお笑い芸人の仕事でしょ?」
「見切り時ってあるやろ。これ以上、続けてもきっと何もならんねん。
実はずっと前からわかっててん。でもな、なかなか諦めきれへんかった」
「……」
「ずっと、夢追いかけたかったんや。でも、それより大切なもんがここにあるし」
透が私と斗夢を指さした。
「実家の仕事を継ぐことに決めた。今まで現実から逃げとったけど、ちゃんと先を見てな
あかん、一人やないねんから…」
「透、私のせいだよね、透が夢あきらめるの…」
お金がなくても、夢を追いかける透が好きだった…。なのに私のせいで
その夢をあきらめることになった…
「いや、真琴のおかげや、真琴のおかげで目が覚めた。今度は日本一おもろい
造り酒屋の社長を目指すわ」
「透…」
「おかんもおとんも喜んでるわ。
真琴の借金も肩代わりしてくれるって約束してくれた」
「え…?」
「着いてきてくれるやろ?」
……もちろんだ。
今の私に選択できる権利などない。
兵庫の片田舎で、透の両親と同居する…
今までずっと避けていた選択肢だけど
今は、それが一筋の光にさえ思えていた。