Special



「ありがとうございます。ホストクラブDReaMです」


次の日も変わらずオレは出勤していた。
開店数分前に店内に鳴った電話を黒服が取る。

別に珍しくもない、至って普通の光景だ。

オレは裏でその会話を聞き流していた―――…あの名を耳にするまで。


「―――え? ああ…申し訳ありません。レンは―――」


『レン』


その言葉が耳に入った途端にオレの中の神経が、血が、細胞が、一斉にざわめき立った。


「はい…。えぇ。もう在籍していないんです。申し訳ありません」


グッと自分の手を握りしめる。

ずっと、ずっとずっと。
靄がかかっていたのは『レン』のせいだ。


「…マサキさん?」
「!」
「顔色…大丈夫ッすか?」
「あ、ああ…大丈夫だ」


後輩がオレに声を掛けてきたと同時に自分の拳の力を緩めた。
そいつが去って行ってからゆっくりと手を広げる。

オレの手のひらにはくっきりと自分の爪痕が残っていた。


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