Special
「お疲れッした!」
後輩に頭を下げられた後、オレは暗い階段を重い足取りで昇る。
地上に出ると、ネオンが未だに煌いていてやけに眩しく感じ、賑やかだった。
オレは張り付いた笑顔を剥いで、街を歩く。
向かう先は、昨日と同じ。
あの角を曲がれば――――そう足取りを少し早めようとした時だった。
「マサキ?」
「あ?」
「わ、マサキだぁ!」
オレの正面からキツイ香水のニオイを撒き散らして駆け寄ってきたのは、オレの客。
「今日店に行こうかなって思ってたんだけどー。こんな時間になっちゃって…ごめんねぇ」
「いや…」
「どっか行くの? あたしも一緒に行きたーい」
腕に絡みついてくる目の前の女。
香水に混じって酒の匂いもする。
勘弁してくれ…オレはとっくに色恋はやってねぇんだからよ。
「や、ごめん…ちょっと…」
「えぇ? なに? 他のオンナ?」
「そういうのじゃなくて…」
「どうせ大した太客でもないあたしなんて、そんなモンなんでしょう?」
あーめんどくせぇ。
店の外でまで会いたくねぇんだよ、昔と違って。
それでも作り笑いをしなきゃなんねぇ。
なにやってんだ、オレ―――…。