Special
「今日は?」
「あ、あ…いつもの」
オレの答えを聞いて僅かに口角を上げ、棚のグラスに手を伸ばす。
紙袋から出したてのライムを手早く切ると、いつものように絞りいれていた。
「どうぞ」
カラン、と氷がグラスの中で廻る。
オレはその氷の動きが止まるのをじっと見ていた。
「…“お連れ様”は、帰っちゃったの?」
「連れじゃねぇ」
「へぇ」
『へぇ』と言ったその声は、興味がないような、どうでもいいような声に聞こえた。
それからオレは目の前のグラスを一気に傾ける。
「…もう一杯」
「……」
あからさまに機嫌が悪いオレに、それ以上真琴は何も言わずにただ言われたとおりにオレに酒を作り続けた。
そんな空気に…いや、仕事後の無茶な飲み方で体がもたなくなったのはオレの方。
気付けばカウンターに突っ伏すような態勢でそこに何時間も居座っていた。
「…男の癖に、何時間もそうやってんじゃないわよ」
久々に聞こえた真琴の声はそんなことを言った。