逢いたくて
「転ぶなよ」

しっかり手をつなぎつるつる凍った駐車場を通り病院に入る

「受付して来る」

「うん」

今日は運命の検診日

渉は仕事を休んでくれた

まだ全然目立たないお腹を撫でながら渉を待つと…

「君か。渉の相手というのは」

顔を上げるとそこには写真でしか見ていなかった院長

つまり…

渉のお父さんがいた

「はっ初めまして」

急いで立ち上がり頭を下げる

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「別に挨拶などいらん。息子の人生を素知らぬ顔してのっとる女牛に興味はない」

「…っ?!」

「どれだけの女に骨抜きされたかと思えば…こんな女とは…。恥知らずの息子だ。」

「……」

「とは言えこの病院に跡取りは必要だ。男が生まれればいいが。」

あまりの衝撃になにも返せない

「ただ君に用はない。医師として、跡取りとしての道がある息子には過去に傷のある嫁は足手まといだ。私が道を譲れば常に足元を救おうとするやつらが容赦なく渉を襲う。その時君は絶好の餌だ。」

「……」

「渉を想うなら生まれたら子供だけ置いて姿を消せ。そうすれば私は息子に道を譲る。君がいる限りは私は息子に道は譲らん。むしろこの病院から追い出し医師として働けないようにしてやる」

「実の息子なのに…」

「私は生まれたときからこの病院のことだけを考えてきたんだ。なのにあの馬鹿息子は足手まといばかりする。それでも医師を目指したのはすこしはこの病院に気持ちがあるからだろう。渉の過去もいろいろとあったが私がすべて揉み消した」

「……」

「まぁ生まれるまでまだ時間はある。愛しているなら離れる道を選ぶんだな。それまでは好きにすればいい」
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