逢いたくて
「咲っ!!」

渉がすぐに床にひっくり返る私のところにきた

「痛いとこは?お腹打ったか?腰はうったか?」

くまなく体を調べる

まわりの人の視線が痛い…

「大丈夫」

渉につかまり立とうとするとすっと抱き上げられた

「だめだ。病院行こう」

「だめ!それはだめ!」

「咲がどういっても」
「咲さん」

ふたりで声の方に目をむけると結城先生がいた

「私に任せて」



結城先生は赤ちゃんが動いているしお腹のはりもすこし休めば大丈夫と言ってくれた

渉は結城先生の配慮もあり挨拶にまわっていて私のとなりには結城先生がいてくれた

「退屈な世界でしょ」

「……」

「私には退屈」

「結城先生もそう思うのですか?」

「ここにいる人達は隙あらば誰かを蹴落としのしあがろうとしてる。私なんかは下っ端だからまだ矢面にはたたないけど…あなたも大変ね」

「……そんな世界なんですか?」

「そうよ。みんな上に行きたくているしまだまだこの世界は古くて…裏での取引は…知らないほうが幸せよ」

結城先生はまわりに目を向けながら遠くを見てる

「院長になれば渉先生はつねにその目にさらされる。きっと渉先生も知っていて一線をはった付き合いをしているはずよ。だからなにもまだ染まっていないあなたとの時間は癒しなのかもね」

「……たとえば」

「ん?」

「たとえばなにかで渉にマイナスな面があったら…どうなるんですか?」

「こんなこと教えたくないけど…すぐにマイナスなことは広がってみんなからよってたかってつつかれる。仕事が一気にしにくくなるし…地位も名誉もなくすことだってあるわ」

「……」

渉のお父さんの言っていたことは本当だったんだ…

「妻として気をつけてあげてね」

「…はっはい」

とりあえずと返事をする

「あっ河野先生!ごめんねちょっと行ってくるわ」

そう言って結城先生は立ち上がりかけていった
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