逢いたくて
「だめだ」

渉の声が怒ってる

怒りながらも私が引き抜いた点滴を止め

私の腕からぽたぽた流れる血を圧迫して止血してる

時々血中の酸素量を測定してる機械にまで目をやる渉は完全に医者の顔だった

「帰る…」

でももう抵抗する力はなくて

渉の肩にもたれたまま

自由のきく手で渉の服を引いた

「帰してやりたいけど、自分がよくわかってるだろ?肺炎は馬鹿にできないんだ。こうなる前に治してやれたら良かったんだけど」

「…ハァ…ハァハァ」

「どうしてそんなに帰りたいんだ?」

「いや…ハァなの…思い出す…ハァ」

肩で呼吸しながらも涙が止まらない

「思い出す?」

「………………ハァ…く…る…し」

意識が朦朧としてきた

身体から一気に力が抜ける
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