ピアス
「無理しないで。ゆっくりでいいじゃない。ゆっくりで」




「なにか大事なものが欠落しているようだ」クリフはそう言い、目線を盆に移し、「これはなんだ?」と指をさした。



「梅粥と漬物と味噌汁よ」と柚菜は言い、「誰かに作るのは久々だから自信ないんだけど」と付け加えた。


 クリフは梅粥を眺め、手に持ち、一気に胃奥へ流し込んだ。それは彼にとってはじめて口にする味だった。梅と呼ばれる酸っぱさととろっとした米が絶妙に合わさり、胃の内部が温まる。



「非常に美味しい」とクリフは柚菜を見た。



「あのお、そうやって食べるんじゃないんだよね」と柚菜は品のある笑みをし、「こうやるの」と箸の使い方をクリフにレクチャーした。


 クリフは戸惑った。指の使い方にそれなりのコツがいるようだ。柚菜がさりげなく彼の指に触れ、
こうやるの、指に彼女に息が軽く吹いた。妙にやさしく、彼女の匂いは、桃の香りを連想させた。

 
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