ピアス
 再度銀製の箸を確認してみた。何もなっていなかった。

 クリフの様子がおかしかったのだろう、
 柚菜が、「どうしたの?」と訊いた。



 クリフは少し黙る。時間にして数秒の沈黙。いや、彼本人にとっては一時間という長い時間だったかもしれない。そして一言、


「いやなんでもないよ」とクリフは柚菜の顔を見ながら言った。彼女の唇はぽっかりと開き、やわらかそうな唇だった。



 クリフにとって断片的に思い出すことは、ただ一つ。
 銀、という物質に対して感情が昂るということだ。


 なぜだかはわからない。ピアスも銀、つまりはシルバーということは何か少なからず関係しているのだろう。


 クリフは黙って梅粥を食べた。茶碗のサイドにのせてあるワサビをつけると味に深みが増した。
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