ピアス
 柚菜には弟がいたらしい。三つ下で意志が強く、負けず嫌い。


 兵力の乏しい大日本帝国軍は、三つ下の弟を陸軍に入れた。
 彼は日露戦争に出兵した。




 が、戻ってこなかった。腕章と制服の胸ポケットに入れられた家族の写真だけが柚菜の元に戻ってきた。その写真も弟の部分だけ破れていた。

 

 その時に、弟は本当に死んだ、というのを柚菜は確認したらしい。
 

 両親は、早くに病気で他界。戦争が過激化すれば、食糧は目減り、国力、人員、何もかもが
減少する。戦争が落ち着いても、数年後には空や陸や海で血が流れる。

 
 柚菜はそれらを語った日に泣いた。


 全てを洗い流すかように、溜まっていたものを吐き出すように。他の者もそうだと、自分に言い聞かせたが涙という洪水はせき止めていたものを破壊する。

 
 迅速に、勢いよく、過激に。

 
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