ピアス
 人間は、いや人間とは感情で動く生き物、だ。クリフは思う。

 

 それを柚菜の過去の話を聞いて改めて思った。

 

 クリフは訊いた。「家族がいなく、一人でいることに寂しさはないのか」、と。



「もう、慣れたから」と柚菜は言った。口元は口角がキュッと上がっていたが、目は哀しそうだった。そして背中も。

 そう、クリフは感じた。

「無理しなくていい」クリフは言う。



「無理なんかしてないわ」柚菜がクリフに振り向き、「私とクリフは似た者同士かも」と言った。



「一度何かがうまくいかなくなる、するとそのうまくいかないことが別のうまくいかないことを生み出す。そして状況はどこまでも悪くなりつづける。どうあがいても、そこから抜け出すことができなくなってしまう。誰かがやってきて、そこからひっぱりだしてくれるまで」
 クリフは、すらすらと言葉を並べた。一度リセットした算盤のように。


「じゃあ、私をひっぱり出して、クリフ」
 少し伸びた髪の毛先を触りながら柚菜は言った。



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