ピアス
 戸口の方で柚菜は悪戦苦闘しているようだ。

 

 「いません。そんな人はいません」
 と語気を強めている。


 女性というのは突如口調が豹変し、興味深いとクリフは感心と共に、不思議さを感じる。
 


 が、感心してる場合ではない。


 さらには男のしゃがれ声まだ聞こえる。


「いるのは、知ってるんです。知ってるんです」
 しゃがれ声の男の口調にリズムがあった。


 やはり聞覚えがあると、クリフは思った。
 そのしゃがれ声に似た声で、昔よく耳元で、〝行きましょう。た〟とクリフの頭の中で光景が映し出されそうになった瞬間、



「たいちょ〜う」としゃがれ声が居間に上がって来た。


「ちょっと、勝手に上がらないでよ」
 柚菜が眉を上げる。


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