願い事、ひとつ
この時間の私たちに、あまり会話はない。

もともと彼は話す方ではないし、私も会話を求められていないと思っているから。

ただ、誰かにそばにいてほしいんだと思う。

彼は大きな体を屈めて部屋に入ると、慣れた様子で床に座った。

そして、持ってきたビニール袋からビールの缶をふたつ出して、ひとつを開ける。私は飲まないから、ふたつとも彼の分だ。

私はいつも、紅茶を入れる。この時間だけはアルコールを口にしないと決めていた。

そのかわり、つまみだけは部屋代として頂くことにしている。

今夜はさきいかだった。

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