隣人M

死闘の果てに

バチン……


椎名は宙にいた。跳んでいるというより浮いている、と言った方が適切な表現だった。ゆるめに髪を束ねていたゴムがするりとほどけ、先の少し細くなった癖のない長髪が、彼が着地するより1秒ほど遅れてゆっくり肩にさらさらかかった。


ボールは彼の手の中にあった。


「インターフェアにはひっかからないよな。じゃあ次は、俺の番だ!」


椎名はすばやく向きを変えて華麗なドリブルでゴールに向かって駆けていった。夏彦も数秒遅れて、放心状態から抜け出して走っていく。


しかし、もう遅かった。椎名は右足で踏み切り、ボールを右手に持って風を切って跳んでいた。


ガコン!


克己は、思わずため息をついた。こんなに美しいダンクシュートは見たことがなかった。闇の静寂に響く、ボールが弾む音、ゴールがきしむ音。


そしてそこに突然響いた銃声。

映画のワンシーンのようだった。夏彦がちらと振り向いたようだった。少し笑みを浮かべて。彼の体がゆっくりくずれ落ちていく。本当にゆっくりだった。1秒1秒、まるで映像をコマ送りにしているように。体に、赤いものがにじんできた。どさりと夏彦が横たわる音が、なぜか柔らかかった。そして同時に、彼の体が大きくぶれたかと思うと、ゆっくり消えていった。残像を残して。


……あのなあ、お前力みすぎなんだ。だからレイアップだって入らない。もっと肩の力を抜け。そうだ、そうそう。


―なあ克己、俺ら親友だよな?いっしょに生きよう―


……あのなあ。シュート入らないくらいでめそめそするなってば。人生は厳しいんだぜ。死ぬ気でやらなきゃ、成功しないんだ。でもよ、がんばってがんばってやって点が入ったときくらい嬉しいときってないぜ?だからさ、がんばろうって思わないか?……


「思いに耽っている時に申し訳ないがね」


椎名が目の前にいた。克己は思わず目を細める。太陽の光が眩しかった。
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