隣人M
あの時、克己は確かに笑っていた。自分の決心……心療外科医になることを告げた時。


あの瞬間、俺たちの戦争は終わった。真冬で、粉雪がちらつく戦場だった。腰かけた石は、氷のように冷たかった。俺たちの部隊は全滅していた。そして、なんとか生き残った俺と克己は、二人で天の裁きを待っていた。味方に救われるか、捕虜になるか、あるいは……殺されるか。あたりは仲間の死体だらけ。しんしんと音もなく降り積もる雪が、戦友たちの顔や血を隠してくれるのが、せめてもの救いだった。


「俺の夢、かなうかな」


「そうだなあ。お前ならできるさ。ほら、俺に最初にバスケットを教えてくれた時、言ってくれた言葉……ああいうことを真顔で言えるお前なら」


「褒めてないだろ」


からからと乾いた笑い声が響いた。そして二人で空を仰いだ。雪が目に入って、冷たくて悲しかった。俺たちは自然に凍える手を重ね合っていた。


「なあ克己、俺たち親友だよな。一緒に生きよう」


「ああ。そしてな、二人でバスケットをするんだ。俺は背がちょっと低いから、ポイントガードで頑張って、お前は花形シューターだ。戦争も終わったし、一緒に学校に通おう。そしてマンションに住んで、二人で放課後は部活だ。夕夏がマネージャーになってくれるといいな。三人だ。三人で勉強して、三人で遊ぶ。いつでも三人一緒さ」


克己の目は輝いていた。そのまま二人で空の向こうを見つめていた。吸い込まれそうだった。克己がぽつりとつぶやいた。


「空の向こう……何かがあるような気がする。手を少し伸ばしたら、そこに届きそうな……」


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