隣人M
俺は寒くて軍服の衿を立てた。吐く息が白くてきらきらと光って見えた。


「克己、お前の夢は?」


「さっき言っただろ。三人で……お前と、夕夏と一緒にいることさ。俺たち、まだ16なんだ。今から、学校に通ってみたい。俺の故郷では、まだ小さい頃に戦争がひどくなって、ろくに勉強していないんだ。それでも、疎開先で少しずつ勉強したよ。でも、不思議なものさ」


「何が?」


克己は銃身のラインを指でなぞった。伏せられた目。まつ毛が白く凍って、唇はコバルトブルー。もう頬はピンク色ではなかった。克己は何も言わなかったが、寒さで震えているのがわかった。俺は克己に体をくっつけた。


「勉強していた頃はわからなかった。でも、今は懐かしくてな。もう一度勉強がしたい。高校に行ってみたい。鉛筆を銃に持ちかえて、仲間の代わりに生き長らえている俺だけど、チャンスがほしいんだ……」


「でも、三人でいるのはいいけどよ、俺、取ってしまうかもしれないぜ」


「何を」


「……夕夏さんさ。かわいいよな。そして、俺の夢を真面目に聞いてくれたのは彼女だけだった」


「いいさ。いつだったかな……ああ、お前の見舞いに夕夏が来たときだ。俺、あいつにお前のことをどう思っているか聞いてみたんだ。いい線行っているみたいだぞ。きっと、あいつはお前が……」


「そうだといいな」


二人で力なく笑った。もう笑う気力もなかったが、克己を勇気づけるために、自分の力を振り絞るために、腹の底にぐっと力をこめて笑ったのさ。


その時だった。
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