理想恋愛屋

4.純粋で且つ難解

 夏の虫がリリリと騒ぎたて、日も落ちてぐっと冷たくなった風が頬を切る。

二人分の下駄でカラカラとかき鳴らす音が、一際目立っていた。


 仲居さんに教えてもらったとおり、別れ道を脇に入ると遠くで白い洋館が見える。

写真に映っていた建物と瓜二つ…いや、同じなんだろう。


 それが近づいてきた頃。


「瑠璃さん!」

 遠くで聞こえた、覚えのある声。

更にスピードを上げた彼女に追いつけなかった自分が情けない。

 アルコールが体内に入っているとはいえ、鍛えなおそうかと落ち込む寸前だった。


 先に彼女が駆け寄ったそこには、少女を抱えたオトメくん。

ぐったりとうなだれるように倒れこんだ少女をみて、穏やかな雰囲気ではないことは確かだった。

慌てて近づくと、一心不乱にオトメくんが少女の身体を揺らしている。


「瑠璃さん、瑠璃さんっ!」

 オレたちが来たことすら理解していないのか、少女だけを見つめている。


「オトメくん、一体どうしたの!?」

 挟み込むように向かい側に回った彼女が、少女の顔を覗き込み手首を掴んだりして状態を探っていた。

その手際に見とれかけたが、オレもできることをしなくては。


 少し…いや、かなり怖いけど。


「あそこで電話借り……」

 勇気を振り絞って、一歩を踏み出して振り返ったときだ。


 彼女がオトメくんの胸倉を片手で掴みあげると、右手を大きく振りかぶる。

痛みを感じないはずなのに、次の動作が刻み込まれたように身体がピクリとこわばった。



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