理想恋愛屋
 オレは誤魔化すように、はーっと白い息を作って綺麗な星空を楽しげに見上げる彼女の肩に着ていたコートを掛けてやった。


「……ありがと…」

 少し驚いたような恥らうような、そんな珍しい彼女の表情。

オレは手にしていたマフラーをグルリと巻いて歩き出した。


「さて、行くか」

 隣には、珍しそうに袖を引っ張ったりやけにクルクル回っている彼女。

着丈が合わないブカブカの格好をして、オレはやっぱり非日常を感じずにはいられなかった。



 ……のだが。



「っていうかさ、大体あたしに一言も話がないのはおかしくない!?」

 突如、思い出したように怒りだす彼女についていけず、オレはごくりとつばを飲み込む。


「い、いきなりなんだよ!?」

「あたし自身のことであって、トラや葵、ましてやお祖父ちゃんに決定権があるわけないでしょう!?」

 捲し立てる彼女のスピードについていけず、思わず後ずさり。

しかし、まだ言い足りないのかずずいと詰め寄ってくる。


「ま、待てよ、勝負のことか?それなら……」

「特にお祖父ちゃんなんて、いーっつもなんでもかんでも決め付けちゃってさぁ!!」


 相当ご乱心の様子だ。こうなったら、手がつけられない。


 ……というか、自分のために争ってくれたオトコが二人もいるのだ。

もう少しトキめくなり、感謝なりして欲しいところ。


 それなのに、彼女ときたらまさかの怒り心頭。


「あったまきちゃう!だったらあたしに勝負を挑めっての!!」


 自分へ挑め、って……どんな殺し文句だ。

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