理想恋愛屋
「んもぉおおおおっ、じれったいわね!!」

 バァンッ、とまたもや扉が激しく開かれて若干ずれたであろうが、その音にオレは心臓が飛び出るかと思うほど震えた。

珍しいことに耳まで真っ赤にした彼女ですらも、一緒になってビクンと肩を震わせていた。


「あ、秋さん!?な、なんでココにっ!?」

 そんなオレの質問に答えず、勇み足でズンズン詰め寄ってくる秋さん。


「するならしちゃいなさいよ!!」


 ……っていうか。


「えっ!み、見てたの!?」

「あ、あたしだけじゃないけど……ね」

 申し訳程度にペロっと舌を出した秋さんの背後で、事務所の入り口から急にバタバタっと人が雪崩込んできた。


「わ、わわわっ!」

 足をもたつかせて土台になるように倒れこんだのは、言わずもがなオトメくんだ。

そのもたつかせた原因でもあるのが──


「あ、あら?大丈夫かしら……?」

 と不安げに手を差し伸べた萌。

そんな婚約者の手をそっと自分の手で包み込んだのは、兄。


「ほっといても大丈夫ですよ、なにせあの葵さんの舎弟らしいですからね」

 やはり食えないオトコ。


「んもう、バレちゃったじゃなーい!」

 オレたちの目の前で背を向けて怒っている秋さんは、一番に飛び出てきたんだけどな。


「葵、遥姫ちゃん、お取り込み中ごめんね。実は昨日のDVD渡しに来ただけなんだけど……」

「すいません、僕たちもモニターで昨日の様子見させてもらいましたよ。いやあ、イイ緊張感でしたねえ」


 とハラグロカップルは、さらりと爆弾発言。


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