赤い月
浮かび上がって目線の高さが合った彼女に、景時は片方の口角を上げ、不敵に笑ってみせた。
彼女の眉が不快そうにピクリと動くが、この際、気にしない!!
「だからぁ、傷つける気はないケド、逃がす気も、ない。」
言い切るなり、彼女に向けて左手を伸ばす。
届く…
『動くな、景時。』
彼女に触れそうな指先が、ピタリと止まる。
そのままの格好で、景時は深い溜め息をついた。
「…くると思った。」
「悪いな、景時。」
冷たい表情は変わらない。
だが彼女はひんやりした手で、景時の頬に触れた。
「妾も、そなたを傷つける気はない。
言ったであろう?
鬼と人とは相容れぬ、と。
妾は…もう二度と、人と深く関わるつもりはない。」