大人的恋愛事情 SS
「追加で注文しますけど、何か頼まれます?」
メニューを持ってこちらを見る顔には、微塵も笑顔など浮かんでいない。
「じゃあ、俺、梅酒のソーダ割り」
隣の同僚が繭の言葉に反応して、空になったグラスを見せて言う。
「食べ物は?」
「俺はいいわ。こいつ遅れて来てるしまだ食ってねえんだ」
同僚がそう返すと繭が俺を見てメニューを渡して来た。
「どうぞ」
軽くそう言って後ろを振り返り、忙しくしている店員を呼び止める。
纏めて飲み物を注文し、最後に俺を見るので何品かの料理とビールを頼む。
注文を聞いた店員が去っていくと、隣に座る繭が僅かに微笑んだ。
「飲み物もまだだったんですね」
「ああ、まあ……」
近い距離で微笑まれて、多少動揺する俺が適当に返すと、ずっと憧れ続けてきた女がさらに笑顔を見せる。
その笑顔は明らかに作り笑いだと思いながらも、それでもなんでも何年かぶりに話す事ができ、このチャンスを逃すわけにはいかない気がした。