ジューンブライド・パンチ
 ガタン!
 大きな音を立ててブライズルームのドアが開いた。なにかと思えば、カズミがベロベロに酔っぱらった状態で入ってきた。

「うっそでしょ」

 朝ご飯は7時位に宿泊先で食べたけれど、現在時間14:30。空きっ腹に飲んでいるはず。しかも、日本酒とビールのちゃんぽんだ。もう完全に泥酔。千鳥足で真っ直ぐ歩けない。

「おう! おなつ!」

「なにちょっと、すごく酔ってる!」

 友人もガンガンお酒を注ぎに来ていた。「水だから」と注いでいったのは日本酒じゃないかと。日本酒はだめだ。本当にだめだ。

「大丈夫ですか!」

 介添えさんも心配している。わたしのヘアメイクさん達は唖然としている。

「結婚してください!」

「は?」

 なにいまココで。ていうか、誰に言ってんの? ほら、みんなちょっと笑ってるじゃないの。恥ずかしすぎるからちょっと黙っていて。

「このヤロウ……わたしが中座の間にガブ飲みしやがったな……」

 情けない。お酒が好きなのは分かっているけど、弱いんだから、少しぐらいガマンして欲しかった。セーブして欲しかった。……けれど、目の前が新郎友人席では、それは不可能に近い。
 ぶっ倒れたりしなければ良いなと思っていた。式場の歴史では、救急車で運ばれた新郎が居たそうだけれど。本当にそれは最悪なので勘弁して欲しい。

 カズミはいままで、酔って暴れたことは無かったので、そっちは大丈夫だと思う。万が一暴れるようなことがあったなら、蹴り飛ばして縛って置くけど。

 和装を脱がされ、フラフラでトイレに行った。「大丈夫かな……」思わず口を突いて出た。本当に心配。披露宴はあと少し。あの状態で乗り切ることができるのか。

 心配しつつ、わたしは、深紅のドレスにお色直し。せっかくなので、鏡に映った自分をスマホで自撮りしていた。

「なぁにお前、自分で撮ってんだよ~」

 洋装に戻ったカズミがわたしの所へ来た。本当に、すごく酔っぱらっている。目が真っ赤だ。真っ赤で半目。

「自分でちょっと、記念に撮りたいんだもん」

「なんだかキモイ」

「うるさいなぁ」

 わたしは口を尖らせた。キモイなんて、わかっているもの。いいじゃない、こういうときぐらい。

「おなつぅ!」

 そのかけ声と共に、カズミの大きな手が大きく振られた。
 バチーン!

「いったああああ!!!」

「えへへ」

 カズミがふざけて、わたしの左肩胛骨あたりを、思いっきり叩いたのだ。酔って力加減がわかっていない。反射的にわたしはブチ切れて、カズミの頬を平手打ち。
 バッチーーン!!

「ふざけんな! しっかりしなさい!!」

 本気のブチ切れ。このドレスのように真っ赤に燃える怒りの獣神。

 燃やせ 燃やせ 怒りを燃やせ
    走れ 走れ 明日へ走れ
      怒りの炎が天を突き破る

 違う。落ち着け。マニアックな歌をうたっても、わかるのは一部なのだから。

「ご、ごめんなさい」

「ふざけるな!」

 もう一発殴った。今度はグーで。腹が立って仕方がなかった。ドレスじゃなければハイキックしたかった。わたしはすこしだけ、空手の経験がある。もう足はあがらないと思うけれど。

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