ジューンブライド・パンチ
 わたしが支えていないと、そのまま階段から転がっていきそうなカズミ。新郎は、新婦の腰に手を添えるのではなくて、肩に手を回していて……ほんとうに飲屋街の酔っぱらいだ。

 どう見ても、ドレスのねーちゃんが、酔っぱらいを支えている図。

 このままキャンドルサービスだ。この状態で火を使うなど、赤ん坊にハサミを持たせるようなものだと思うのですが。

「新郎さま、しっかりトーチをお持ち下さいね」

 男性スタッフが言う。しっかりもクソも無いでしょ無理っぽいの見ればわかるだろこのヤロウ! スタッフにもブチ切れそうになる。
 渡されたトーチの先からは炎。愛の炎、というシーンだけど、わたしはこれをカズミが振り回しでもしたら、後ろから跳び蹴りをする以外に防御策は無いだろうと思っていた。

 その心配は杞憂に終わる。そう、半分以上、トーチはわたしが持っていたから。

 椅子にドレスが引っかかり動けなくなったり、行く先々のテーブルでお酒を勧められ、それをいちいち飲むわ、ビール瓶に口をつけて飲むわ、支えきれずにブチ切れて男性スタッフに「支えていてください、わたしひとりじゃ無理だから!」と怒鳴ったり。

 大騒ぎしながらも各テーブルをまわり、メインキャンドルへ到着。そして点火。「ひょほーい!」とカズミは上機嫌。ロマンチックな雰囲気のはずが、爆笑タイムだ。フラフラで躓いたカズミを支えつつ、なんとか花嫁の手紙まで来た。

 あと少しだよ。がんばって!

 隣で、わたしに顔を近付けて、肩をガッシリ掴んでいるカズミ。本来なら新郎がマイクを持つのだが、そんなことができる状況じゃないので、自分で持った。

 選びに選んだ便箋と封筒。そして短い手紙だった。だって、紙に思いを全部書けない。感謝の気持ちはこれから一生で返すつもり。わたし達が居て、ゲストテーブルがあって、向こうに両親が居る。

「カズミくんが、6月の花嫁にしてくれました」

 という文面を読んだら「俺、俺な」というジェスチャーで小さくアピールをするカズミ。泣きそうになると「泣くなよ! ガンバレ!」と耳元で、小声で励ましてくれる。
 ありがたいけど、ちょっとうるさかったので「静かにしてね」とマイクから口を離して言ったら「ハイ」と言う。すると笑いが起きる。

 花嫁の、感謝の手紙で、笑いが起きるのも珍しい。

 とりあえず手紙が終わって、両親の元へ行く。花束贈呈だ。披露宴のクライマックスだ。そのとき、カズミが、わたしの母親の前で、急に泣き出した。

「うっうっ……お、おれ、おなつに苦労かけさせたくないんすよお!」

 どうしてこのタイミングで泣くの! いいからちょっと落ち着いて。うちのお母さんに「泣かないの~」と頭を撫でられて、ますます泣くカズミ。花束、記念品の贈呈。その流れで新郎父の挨拶。ここまでは無事に(?)来た。さぁ問題はこれからだ。
 新郎は挨拶。いつわたしは介添えスタッフに「新郎挨拶無しで!」と言おうか迷っていた。わたしの肩をガシッと抱き(ずっとこの状態)空いた手でカズミはスタンドマイクをつかんだ。

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