焼け木杭に火はつくか?
蓋を開けてみれば、修行などという生易しい言葉では片付けられない、良太郎には荒行と呼びたくなるような苦行が、良太郎が放り込まれたなべ底で、手薬煉を引いて待っていた。
よくよく考えてみれば、判りそうなことだった。
いや、本当は判っていたのだと思う。
今までだって、短編にすら苦しめられて苦い思いをしてきた。
それが、それより更に短い掌編だ。
原稿用紙にして十枚ほどの短い短い小説だ。
百枚書き上げろと言われてほうが、良太郎にはまだ楽しめる作業だった。


こんな地獄が。
一年も続くのか。


そう思うと、書き置きの一つで残して旅にでも出てしまうかという気にさえなってきた。


二度と。
酒の席で仕事の安請け合いなんてするもんか。
夏海さんの口車なんぞにも。
のってなんかやらねえぞ。


良太郎はそう強く心に誓った。

けれど、でも、この仕事だけは引き受けてしまった以上、どうにかしなければならなかった。
無理でしたなどと言って夏海に迷惑をかけたら、この家までもが針の筵と化して、良太郎はまた荷物まとめて、今度は逃げ出すように東京に出て行くことになりそうな気がした。

良太郎は、また重いため息を吐いた。
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