紺碧の海 金色の砂漠
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国王夫妻がハネムーンを楽しむアズウォルド王国から約一万二千キロ。八時間の時差があるクアルン王国では間もなく夜明けであった。
広大なアブル砂漠を一頭の馬が駆けている。
アラブ馬の駿馬であったが、やはり相当スピードは落ちていた。サラブレットより小柄な馬体にふたりの人間を乗せ、夜を徹して駆けてきたのだ。当然かも知れない。
それでも馬は主人の窮地を知ってか、懸命に馬銜《はみ》を取り、砂を蹴り上げて目的地を目指す。
『シャムス、疲れたであろう? 辛くはないか?』
腕の中の妻にそう問いかけたのは、ミシュアル国王の乳兄弟にして側近、ターヒル・ビン・サルマーンだ。妻とともに国王夫妻に仕えるため、彼もミシュアル国王のすぐ後に結婚式を挙げたのだった。
妻のシャムスはわずか十八歳。とはいえ、十六歳のころから王太子の宮殿に上がり女官の見習いをしてきた。クアルンの基準では立派に一人前の女性である。
『いいえ。あなた様と一緒でしたら、私は何も辛くなどありません』
シャムスは疲れた顔に笑顔を浮かべ、きっぱりと言い切った。
妻の言葉を受け、ターヒルはしっかりと彼女を抱きしめる。小柄なシャムスの躯に女らしい曲線を感じながら、彼は器用に片手で手綱をさばいた。
『……すまん……』
ターヒルは小声で詫びつつ、目的地――隣国ラフマーンとの国境を目指すのだった。
国王夫妻がハネムーンを楽しむアズウォルド王国から約一万二千キロ。八時間の時差があるクアルン王国では間もなく夜明けであった。
広大なアブル砂漠を一頭の馬が駆けている。
アラブ馬の駿馬であったが、やはり相当スピードは落ちていた。サラブレットより小柄な馬体にふたりの人間を乗せ、夜を徹して駆けてきたのだ。当然かも知れない。
それでも馬は主人の窮地を知ってか、懸命に馬銜《はみ》を取り、砂を蹴り上げて目的地を目指す。
『シャムス、疲れたであろう? 辛くはないか?』
腕の中の妻にそう問いかけたのは、ミシュアル国王の乳兄弟にして側近、ターヒル・ビン・サルマーンだ。妻とともに国王夫妻に仕えるため、彼もミシュアル国王のすぐ後に結婚式を挙げたのだった。
妻のシャムスはわずか十八歳。とはいえ、十六歳のころから王太子の宮殿に上がり女官の見習いをしてきた。クアルンの基準では立派に一人前の女性である。
『いいえ。あなた様と一緒でしたら、私は何も辛くなどありません』
シャムスは疲れた顔に笑顔を浮かべ、きっぱりと言い切った。
妻の言葉を受け、ターヒルはしっかりと彼女を抱きしめる。小柄なシャムスの躯に女らしい曲線を感じながら、彼は器用に片手で手綱をさばいた。
『……すまん……』
ターヒルは小声で詫びつつ、目的地――隣国ラフマーンとの国境を目指すのだった。