紺碧の海 金色の砂漠

(2)砂漠に落ちた涙

(2)砂漠に落ちた涙



砂漠に朝日が昇る。

それはまるで、闇に襲い掛かる火の玉のようだ。決して逃がさぬとばかり、地平線を朱色の光が追いかけてくる。

そんな錯覚に、ターヒルの手綱を持つ手は汗ばんだ。


『旦那さまっ!』


懐でシャムスが声を上げた。

国境に到着したのだ。印は何もないがそこを超えると確かに隣国ラフマーン王国。その証拠に、密かに手配したヘリが待機し、ターヒルらの到着を待っていた。

白いトーブに身を包んだ数人の男が見える。

ターヒルは手前で馬を下り、腰のジャンビーアに手を添えた。


『我が名はターヒル・ビン・サルマーン! あなた方の主人の名をお聞かせ願おう』


シャムスはターヒルの背後に隠れる。

もし、予想どおりの名前が返って来なければ、ふたりはこのまま銃弾の洗礼を浴びることになるだろう。そのときは砂漠に屍を晒すことになる。

せめてシャムスだけでも逃がしたかったが……。

ターヒルがそう思ったとき、妻はギュッと彼のトーブの端を掴んだ。

 
(共に死ぬなら、それも良しとしよう。我々の無念は、必ずや陛下が晴らしてくれるはずだ)


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