紺碧の海 金色の砂漠
覚悟を決め、ターヒルが剣の柄に手を掛けたとき――男たちが左右に割れた。

そして赤いグトラを被った長髪の男性が姿を現す。


『我が命はラフマーンの国王(スルタン)に、そして我が心はアッラーに捧げている。これでよいか?』

『サディーク王子!』


ターヒルとシャムスはほぼ同時に叫び、砂の上に膝を折った。

隣国ラフマーン王国のサディーク王子にターヒルは助けを求めたのだ。だが、まさか王子自らが彼らを迎えに来てくれるとは思わなかった。


『このたびのご厚情、深く感謝申し上げます。このお礼は必ずや』


律儀にも礼を言い始めたターヒルの言葉を遮り、サディーク王子が言った。


『挨拶は後だ。ヘリで空港まで行き、乗り継ぎを経てマニラからアズウォルドを目指す。パスポートは用意した。すぐに』

『では、妻だけお願いいたします』

『ターヒル! 正気か? 国に残ればお前は』

『私はミシュアル国王陛下より、不在中はカイサル陛下とヌール妃様、そしてラシード王子ご一家をお守りするよう命じられております。事態がどれほど変わろうとも、主君の命に背き、逃げ出すわけにはいきません。どうか、妻を……サディーク王子のご養女アーイシャ様の下にお届けください』


――女官を娘の下に送り届ける。


国外に出たのがシャムスだけなら、サディーク王子の名誉を傷つけずに済む。

ターヒルのそんな思いに気づいたのか、サディーク王子はそれ以上何も言わなかった。


< 118 / 243 >

この作品をシェア

pagetop