紺碧の海 金色の砂漠
『そのリドワーン殿下が、暴動の首謀者に逮捕状を出したと、日本のクアルン大使館に連絡があったのです』

『組織は一網打尽にしたのではなかったか? 首謀者が他にいたとは、私は聞いておらぬぞ』


ミシュアルの問いにヤイーシュは頷きつつ答える。


『はい。私も暴動は未然に防がれ、一味は全員捕らえたと報告を受けておりました。それで、不審に思いターヒルに連絡を取ろうとしたのですが全く繋がらず……』
 

ヤイーシュはラシードにも連絡を取ったという。

だが、側近に電話を取り次いで貰えず、やがて電話番号そのものが不通となった。王宮や首都に在住の知人・友人に連絡するが、電話だけでなくメールも遮断され、日本のクアルン大使館は一時騒然とした。


『事態のわからぬまま、いたずらに、ハネムーン中の陛下にご報告もできず――アル=バドル一族に連絡を取り、現在クアルンで何が起こっているのか、調べさせたのです』


アル=バドル一族とは、ヤイーシュが族長を務めるベドウィンの一族だ。誇り高く、砂漠の戦士と呼ばれる勇猛果敢な部族である。

彼らは国家の法より一族の掟を優先する。国のいかなる機関からの命令があっても、族長(ヤイーシュ)の命令に勝るものはない。


『報告を受けて驚きました。なんと首謀者としてターヒルに逮捕状が出ていたのです』

『馬鹿な!』
 

ミシュアルはその一言を叫び、絶句した。


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