紺碧の海 金色の砂漠
『これは、私が直接陛下にご報告申し上げねばと思い、日本の出国手続きを取りました。しかし、出国許可が下りなかったのです。どうもクアルン政府から要注意人物として私の名前が挙がったらしく……その直後、クアルン大使館の公用車が時限式の爆弾により爆破されました』 


微妙な振動に異変を察知したヤイーシュの命令で、大使館員はすぐさま車両から飛び出した。しかし高齢の運転手が逃げ遅れ、彼を庇いヤイーシュは肋骨を三本折るという重傷を負ったのである。


『どうしてすぐに連絡をしなかった!?』

『できなかったのです。大使館に増員されたメンバーは、我々に一切連絡を取らせようとしませんでした』


爆発事故で欠員が出るのを見越していたように、大使館には本国から増員が到着した。

幸い、手術は不要と診断されたヤイーシュだが、数日の入院と安静を医者から言われる。その病室前に、護衛と称して複数の見張りがつけられたという。

ヤイーシュはそこを逃げ出し、追いかけてきたひとりを殴り倒し、大使館員の身分証を不正使用して出国したのだった。


『しかし……なぜ、リドワーンが。歳若いシドを補佐するため、父上が選んだ男だぞ』

『はい。それに、今回の逮捕命令もリドワーン殿下が執行されましたが、逮捕状に書かれた名はカイサル前国王陛下であった、と』



リドワーンは優秀で機敏な男だった。

女性とのトラブルもあったが、常識の範囲内であろう。過度な女好きでもなく、マフムードのような犯罪に加担することもなかった。軍経験もあり、副長官としてそつなく務めている。長官になるのもそう遠いことではないだろう。

ミシュアルたちとの関係も、王族の中では良好な部類であった。


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