紺碧の海 金色の砂漠
言葉をあやふやにするシャムスに、ミシュアルは訊ねる。


『シャムス、色々な噂とはなんだ?』

『それは……聞くに堪えぬ噂でございます』

『それを決めるのは私で、お前ではない。話せ』


シャムスは胸の前で手を組み、躊躇う仕草を見せながら口を開いた。


『ライラ様に手をつけた陛下が、それを隠すためにラシード様に押し付けられた、と。マッダーフ元軍務大臣もだまし討ちにされた、と言っておられるとか。あまりに早いご懐妊も、或いは陛下の――』


怒りに身が震えたが、それをシャムスにぶつけるわけにもいかない。

シャムスは『陛下の命に従うと国に残ったターヒルさまをお救いください』と涙を流しひれ伏した。夫は陛下に忠実です、と何度も口にしながら。


(そのようなこと、当然ではないか!)


用意ができました、と知らせに来た空港係員をレイは労う。

おそらく離着陸のスケジュールを狂わせる事態になったのだろう。


『レイ、この恩には必ず報いる。どうか、私の妃を守ってやってくれ』

『もちろんだ。だがシーク・ミシュアル、当初の予想を大きく外しているようだが……君自身は大丈夫か? 今、帰国するのは危険ではないのか?』

『如何なる問題が起ころうと、国を逃げ出すような王に王たる資格はない。そうは思わぬか?』


――レイは何も答えなかった。
 

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