紺碧の海 金色の砂漠
それと同じような理由で、王位継承者が同じ乗り物に乗ることも禁じられていた。

以前、ミシュアルとラシードが砂漠から首都に戻るとき、別々のジェットヘリを飛ばしたくらいである。

七歳以上の王の息子たちには、全員別々の乗り物が用意されるのが慣例となっていた。


テロや内乱が普通に起こりうる情勢で、一度に王位継承者を失わないための策だ。緊急時以外はそれが決まりであった。
 

ミシュアルに冷たくはねつけられ、ラシードは立ち尽くしていた。


「僕の言葉がさっぱりわからない、と言ったけど……。実は僕自身もわからないんだ。本当に正しい行いを重ねてきただけで、気がついたらアルだけでなく、誰とも連絡が取れなくなっていた。おそらく、みんなもそうだと思う」


なんと返したらいいのかラシードの言葉だけでは判断ができず、ミシュアルは無言を通した。

するとラシードは声を潜め、


「ライラとルナ・アーイシャが心配だ。母上が危篤と聞き、駆けつけたんだが、一度も連絡がない。こんなことなら、ルールを破っても僕がついて行くんだった。……僕が」


泣き言を言い始める。

そんなラシードの胸倉をつかみ、


「馬鹿者! 妻の言いなりなるお前が愚かなのだ。夫の威厳を保てぬなら、妻など娶るな! シド、今のお前が王家の定めた規則を破れば、王子の地位を失うぞ。そのとき、ライラがついて来ると思うか?」


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